第2回 都市のひろがり
− シリーズ「考古学からみた”都市”」 −

平成17年度館長講演会 2005.05.28

 西アジアで5,500年前に出現した都市は,4000年前までの間に地中海東部地域,南アジアなどに見られるようになります。これが西アジアの都市に由来するものであるか,あるいはそれぞれの地域で独自に出現したものかについては議論があります。いろいろな観点から調査と研究を続けていかなければ明らかにすることはできません。エジプトのナイル川の流域,ギリシアのエーゲ海周辺地域,南アジアのインダス川流域などが代表的な地域です。
 エジプトのナイル川流域では,西アジアにほぼ近い時期に,5000年以上前に国が現れます。しかし,都市と呼べるような遺跡は見つかっていません。ナイル川流域では「都市なき文明」といわれるように,文字,金属器,壮大な建築物など文明の多くの要素は出現し,国は成立しますが,特殊な状況下を除くと都市と呼べるようなものはありません。ピラミッドや葬祭殿あるいは神殿など壮大な建築物はありますが,日常生活に関連する居住地のような遺跡ははっきりとしていません。初期王朝,古王国,中央国,新王国という古代エジプトの3千年にわたる歴史を通してこのような状況は続きます。そもそも都市的な性格のものがなかったのか,これまで調査された地点とは違った場所にあり見つかっていないのか,よくわかりません。どうも西アジアとは違った形で国が成立しているようです。
 地中海の東部,エーゲ海周辺では4000年ほど前に都市と呼べるような遺跡が現れます。こちらは西アジアのとの関連の中で考えても良いでしょう。両河地帯から西アジアの広い地域に広った都市は,地中海の東海岸地域にも現れ,さらに周辺に広く展開したのがこの地域の都市といえましょう。多くの島からなるエーゲ海周辺で大きな集落が生じ,都市と呼んでよいような規模の集落になります。それはギリシア本土のヘラドス文化,クレタ島を中心にするミノス文化,キクラデス諸島のキクラデス文化に属するものです。これを総称してエーゲ文明と呼んでいます。壁で囲まれた市域,その中にある宮殿,豊富な副葬品をもつ墳墓,人々の集まる広場など共通した特徴があります。都市を中核にして都市国家的なものが成立したものと考えられます。これはギリシアの諸都市に受け継がれます。市の中央にアクロポリスが作られます。3000年ほど前にイタリア半島にも都市が現れます。エトルスク文化の諸都市です。詳しくはわかりませんが,都市国家的な社会の都市と思われます。
 南アジアの都市は,インダス川流域に4500年ほど前に現れます。よく知られているハラッパ,モヘンジョダロなどの都市です。西アジアとは異なる性格の社会に生まれた都市と考えられます。文字と呼べるものはありますが,まだ内容はわかりませんので社会の中の状況はつかめていません。西アジア,地中海周辺都市とはかなり異なった様相をしています。市の中は二つの部分に分かれ,それぞれの役割があったのでしょうが,その性格は明確ではありません。宮殿にあたる施設も確認されていません。道路,水道などの公共施設は大変よく整備されていました。規模もかなり大きく,多くの人が居住していたことは確かですが,詳しいことはこれからの調査と研究になります。